石川逸子


遠くのできごとに

ひとはやさしい

(おれはそのことを知っている

吹いていった風)

 

近くのできごとに

人はだまりこむ

(おれはそのことを知っている

吹いていった風)

 

遠くのできごとに

人はうつくしく怒る

(おれはそのわけを知っている

吹いていった風)

 

近くのできごとに

人は新聞紙と同じ声をあげる

(おれはそのわけを知っている

吹いていった風)

 

近くのできごとに

私たちは自分の声をあげた

(おれはその声をきいた

吹いていった風)

 

近くのできごとに

人はおそろしく

私たちは小さな船のようにふるえた

(吹いていった風)

 

遠くのできごとに

立ち向かうのは遠くの人で

近くのできごとに

立ち向かうのは近くの私たち

 

(あたりまえの唄を

風がきいていった

あたりまえの苦しさを

風がきいていった)